「一年で一番美しい時間(とき)は?」と聞かれたら、私は迷いなく「桜の咲く季節です。」と答えることでしょう。桜って本当に美しい・・・。
今でこそ愛してやまない桜を、子供の頃の私は好きではありませんでした。
花自体はきれいだと思っていたのですが、どうしても好きになれない理由が2つありました。
1つめは「美しさを打ち消す汚さ」です。通学路の途中にあった中央公園にはたくさんの桜の木があって、花が咲く頃になると週末には大人たちが花見をしていました。
月曜日の朝の通学路の桜の下にはゴミが散乱していて、時に酒臭い匂いも漂っていて、それは決して心地よいものではありませんでした。
そして、初夏を過ぎる頃には、しばしばケムシが発生し、その下を歩くことすらためらうような状況にもなりました。「桜=ゴミ」「桜=ケムシ」この2つイメージが、私の心を桜から遠ざけていたのです。

そんな私が桜の美しさに目覚めたのは、30才前後の頃だったと思います。
休日出勤の振替休みに、車を走らせて清春小学校の跡地にある清春白樺美術館に行きました。
人気のない朝の校庭には少し朽ちかけた桜の古木があり、ちょうど満開を過ぎた頃で、風が吹くたびに花びらがひらひらと舞いながら飛んできました。
それはまるで映画のワン・シーンのようで、私はその景色の中に吸い込まれたようになり、あまりの美しさにしばらく何も考えずにぼんやりと眺めていました。
写真にも残っていない、心の中の1ページです。それからというもの桜には特別な思いを持つようになりました。
私は仕事でバラの花を扱いますが、バラと人の関わり方を例えるならば「女王様とその下僕」です。
一年を通して常にしっかりと管理しないとすぐに機嫌を損ねてしまうバラは、まるでわがままな女王様のようです。
それに対して桜は、私たちの身近に常にありながら大して手入れもしないのに、美しい季節の到来を全身で教えてくれます。
その姿はあたかも私たちを見守っているかのようで、何だか母性のようなものさえも感じることができます。
しかも私の住む関東では、出会いと分かれのあるドラマティクな季節に花が咲きます。
小さな庭ではありますが、横浜イングリッシュガーデンでは30種類以上の桜を楽しめ、今週の前半から中盤に最盛期を迎えそうです。
早咲きの‘春月花’(しゅんげつか)はそろそろ葉桜に、‘染井吉野’より一足早い‘横浜緋桜’は花吹雪でしょうか。
‘染井吉野’は満開で、後を追う‘アーコレード’、‘ウミネコ’‘舞姫’‘淋宝(りんぽう)’は5~7部咲きになりそうです。中でもイギリス生まれの桜‘アーコレード’は私のお気に入りで、実に美しい桜です。
ぜひ桜を見にガーデンにお越しください。